撹拌技術

撹拌を知ろう!スケールアップ手法

スケールアップ手法

  • ※本編では内容の分かりやすさに重点を置いているため、抽象的な表現を多く用いています。従ってイメージに個人差が生じることが考えられますが、ご了承ください。

スケールアップ、ダウンというのは様々なところで必要になってくる、非常に重要な事項です。しかしスケールアップと一言で言っても、実に様々な手法があり、「何を基準にスケールアップすればいいのか?」がつかみにくいのも事実です。ここではその基準について触れていきたいと思います。

まず、基本的なスケールアップについて説明していきたいと思います。

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①Pv(単位体積あたりの撹拌動力)一定でのスケールアップ

反応機をスケールアップするに当たって、撹拌における最も基本的な諸特性がPvによって影響を受けるため、Pv一定でのスケールアップが最も多く用いられます。

  • 1. 幾何学的相似
  • 2. Pv一定
  • (3. Np一定)

この3つを守って、スケールアップ後のスペックを決めていきます。
ひとつずつ順番に解説していきましょう。
1.はたとえば、撹拌翼はスケールアップ前にフルゾーン翼を使用していたならばスケールアップ後もフルゾーン翼を用います。バッフルは板バッフルならばスケールアップ後も板バッフルを使用します。そして寸法は反応機内径を基準にすればいいでしょう。たとえばφ500の内径の槽で実験を行った結果をφ1000の槽で再現したければ、液高さ、バッフルの幅、翼スパン、翼高さなどすべての寸法をφ1000/φ500=2倍にします。これが幾何学的相似です。

2.は単位体積あたりの動力Pvを一定にするということです。単位体積あたりの動力とは、読んで字のごとくですが、たとえば2m3の液を仕込んだ反応機で1.5kWの消費電力があったとすれば、それは1.5 / 2=0.75 kW/m3の撹拌をしていたことになります。(Pv=0.75 kW/m3です)これをそのまま10m3仕込みの反応機にスケールアップするならば、0.75 kW/m3を10m3に掛けるのですから、0.75×10=7.5kWの動力源が必要になるということです。(実際にはシールロスや減速機効率などを考慮して数割程度の余裕を持たせます)

3.のNp一定。Npについては「撹拌動力について」で説明していますので、そちらをご覧ください。なぜこれは括弧書きにしているかというと、これは意図的にコントロールするものではなく、1、2を守ってスケールアップすれば、自ずとNpはほぼ一定になるためです。

以上が最も一般的なスケールアップ手法です。
では、このとき、翼の回転数はどのようにして決めればよいでしょうか?「撹拌動力について」で説明した、動力の式が役に立ちます。P = Np・ρ ・n3・d5 です。 Pvは動力を仕込み液量で割ったものですから、スケールアップ前を添字1、スケールアップ後を添字2とすると、

  • Pv1 = P1 / V1 = Np・ρ ・n13・d15 / V1 ・・・ (1)
  • Pv2 = P2 / V2 = Np・ρ ・n23・d25 / V2 ・・・ (2)

となります。内容液は同じで、Npも一定ですので、Np、ρ は(1)、(2)式共通です。
Pvも一定ですので、Pv1 = Pv2となり、

  • Np・ρ ・n13・d15 / V1 = Np・ρ ・n23・d25 / V2
  • →n13・d15 / V1 = n23・d25 / V2

V1、V2はそれぞれd13、d23と置き換えることができますので、

  • n13・d12 = n23・d22
  • n2 = n1 ・ (d1 / d2)2/3

以上でスケールアップ後の回転数を求めることができます。
しかしながら上記の方法も万能ではありません。
実際には撹拌目的に応じて基準を変えていくことが必要になります。代表的な例をいくつか挙げていきましょう。

②固体粒子の分散に対するスケールアップ

既知の浮遊限界速度式(化学工学便覧参照)からスケールアップ基準として、n・d0.85 = 一定が求められます。一方、Pv一定の条件では、n・d2/3 = 一定であるため、スケールアップに対してPvは小さくてよいことになります。しかしながら、固液系の反応操作は、単に粒子の浮遊だけでなく、反応、伝熱を促進させることが重要であるので、実際には①のPv一定でのスケールアップを採用し、可変速にするケースが多いです。

③通気撹拌に対するスケールアップ

気液界面積aはPv0.4・Ug0.5に比例します(Ugはガス流量 / 横断面積)。一方、物質移動係数kLは気液界面での液の乱れによって支配され、それはPv、Ugによって代表できるので、両者の積である液側容量係数kLaは次式によって表すことができます。

  • kLa ∝PvX・UgY (X、Yは定数)

従って、Ugが一定ならばPv一定の条件でスケールアップが可能です。

しかし、実際には通気撹拌の場合、単位体積あたりのガス通気量(VVM)を一定とするスケールアップが基本となることが多く、幾何学的相似+VVM一定でスケールアップした場合、Ugが増大し、ガス分散が不十分となり、ガス吸収不足や飛沫同伴(エントレメント)の問題が発生することがあります。この場合には回転数up、翼径up、撹拌翼多段化等の変更を行う必要がでてきます。

④表面ガス吸収に対するスケールアップ

①のPv一定条件では性能不足となることがあります。これは、自由表面形状(ボルテックス)がフルード数(Fr = n2・d / g、慣性力と重力の比です)に依存していることが一つの要因です。これに対してはフルード数一定、すなわちn・d0.5 = 一定の条件がスケールアップ基準となります。しかしながら、さらに単位体積あたりの自由表面積が低下しているため、バッフル効果の低減により自由表面積の増大が必要な場合があります。

しかしながらこれも過去の話になりつつあり、現在ではフルゾーン翼に代表される大型翼の開発が進み、Pv一定でのスケールアップでほぼ問題ない性能を得られるようになっています。

⑤高粘度液のスケールアップ

基本的に幾何学的相似、Pv一定でスケールアップします。

なお、Np・Re一定の層流域では、Pv一定 = n一定であり、混合性特性も維持されることになります。

以上、ざっと5つのケースについて説明しましたが、ご参考になりましたでしょうか?

スケールアップは昔から論じられてきた項目ですが、未だもって最も難しい問題のひとつで、確立された方法はありません。コマーシャル機を設計する場合は、小スケールテストで成功する条件と失敗する条件の両方から、反応にどのような撹拌性能が影響しているかを掴むことが最も有効となります。神鋼環境ソリューションでは、各種プロセスのスケールアップを行った実績を持っており、撹拌技術と組み合わせ、スケールアップにご協力します。


●参考文献

  • 培風館 橋本健治 編著 工業反応装置

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