撹拌技術

撹拌を知ろう! 撹拌動力

撹拌動力について

  • ※本編では内容の分かりやすさに重点を置いているため、抽象的な表現を多く用いています。従ってイメージに個人差が生じることが考えられますが、ご了承ください。

撹拌動力の計算(推定)は反応機のスペックを決める上で欠かせないものです。ここではその動力の計算方法と、動力に影響を及ぼす因子について基礎的な話をしていきたいと思います。

まず、撹拌動力を語るのに欠かせないのが「動力数(Np)」と「レイノルズ数(Re数)」という数値です。

Npというのは、動力数と呼ばれる無次元数で、撹拌機の持つ固有値とでも考えてください。例えばその反応機で、内容液の性状が反応途中で著しく変化するのでなければ、撹拌翼、バッフルの大きさや形状、および液量でNpはある程度決まってくるものなのです。ただし、バッフルの幅を半分にしたり、翼の種類やスパンを変えたりすると、撹拌機そのものが変わることになり、Npは変化しますのでご注意ください。

そしてRe数。撹拌の分野では一般に撹拌レイノルズ数というものを用います。これを式で表すと、

  • Re = ρ ・ n ・ d2 / μ・・・(1)
  • ( ρ :密度 [kg / m3]、n:回転数 [rps]、d:翼スパン[m]、μ:粘度 [Pa・s] )
イメージ

ですが、数式ではイメージがわきにくいですね。

一言でいうと「慣性力と粘性力の比」。これでも少し分かりにくいので、もう少し言い方を変えてみると、動き続けようとする力と、止めようとする力の比。

すなわちレイノルズ数が小さいというのは、流体が動こうとする力に比べ、それを抑える力が強い(粘度が高い)、という、そんな感じのニュアンスを掴んでいただければと思います。

その数字が何の指標になるかというと、Reが大体4000以上で「乱流域」、2100以下を「層流域」、その間を「遷移域」と呼び、(現実には遷移域の領域の判定は難しく、文献によってまちまちなことがあります。)「乱流域」の撹拌はバシャバシャと音を立てて混ざる様子で、「層流域」の撹拌はハチミツをスプーンでくるくると混ぜる程度の感じだと思っていただければいいと思います。

以上でNpとRe数のイメージは大体つかめましたでしょうか?

それでは本題に入ります。

まず動力は一般的に以下の式で表されます。

  • P = Np ・ ρ ・ n3 ・ d5・・・(2)
  • = Np ・ ( ρ ・ n ・ d2 / μ ) ・ μ ・ n2 ・ d3
  • = Np ・ Re ・ μ ・n2 ・ d3・・・(3)
  • ( P:動力 [W]、ρ :密度 [kg/m3]、n:回転数 [rps]、d:翼スパン[m] )

(2) 式と (3) 式の2種類がありますが、式を変形させただけで内容は同じです。なぜ2種類あるかについては後述しますが、まずは「乱流域では (2) 式」、「層流域では (3) 式」を使用すると考えてください。詳細については以下で説明します。

一般的に撹拌は乱流撹拌の方が圧倒的に多いので、まずは乱流撹拌について話を進めます。(層流撹拌については後ほど説明します。)まず、下のNp-Re曲線というものを見てください。

グラフ

上図はある低~中粘度用撹拌翼の、ある条件下でのNp-Re曲線です。

これを見ていただければ分かるように、乱流域ではNpはほぼ一定の値を示しています。これが、「乱流撹拌では、内容液の性状が著しく変化するような反応でなければ、Npは変わらない」という所以です。従って、乱流域にある限り、翼スパンを変えたら動力がどのぐらい変化するのか、回転数を変えたらどうなるのかは (2) 式を使って容易に推算できるようになるということです。

次に層流撹拌について話を進めます。

下にある高粘度用撹拌翼のある条件下でのNp-Re曲線を示します。

グラフ

上のグラフの層流域に注目してください。Reが変化すると、Npも大きく変わっています。

しかしながらほぼ一定の傾きの直線になっており、NpとReの積が一定(対数グラフなので)、ということが分かります。従って、Np・Re数というものが分かれば、(3) 式を用いて動力を算出することができるのです。

従って、層流域にある限り、液粘度、翼スパンおよび回転数で動力はどのように変化するかなどは (3) 式を用いて容易に推測することができるのです。

以上より、Npが分かればあらゆる条件での動力が推算できることがお分かりいただけましたでしょうか?

しかしながらNpを計算で求めるのは難しく、撹拌機メーカーがそれぞれのノウハウを持っています。もちろん、神鋼環境ソリューションでも長年に渡り実験を繰り返し、独自のノウハウを持っておりますが、残念ながら企業秘密のため、ここでは開示できません。

Npの推算に一般的に用いられる永田の式がありますが、今回は永田の式を応用した、邪魔板付の2枚パドル翼についての式について紹介します。

  • Np = Np max - (Np max - Np) [1 - 2.9 (W/D)1.2 nB]2 ・・・(4)

ただし、

数式
図

以上の式によってNpは算出されます。ただし、3枚以上の翼の場合、翼幅bは2枚翼に換算して計算します。(例:4枚パドル翼、翼幅b'の場合、b = b'×4 / 2)

Npに影響を及ぼす因子がどのようなものかの参考程度にはなりましたでしょうか?

既存の撹拌機についてNpを推定したいのであれば、電力計で撹拌中のモータの電力を測定し、(2)式で逆算することができます。上で述べたように、乱流撹拌であればNpは一定ですので、回転数は乱流域であれば何rpmでも同じ結果になるはずです。(ただし、シールロス、減速機ロスを考慮する必要があります)

また、一般的な撹拌翼については、こちらで標準的な寸法とそのNpについて表にしていますので、ご参照ください。

最後になりましたが、神鋼環境ソリューションでは様々なテストにも対応しています。φ 400の撹拌槽でテストを行い、テストデータを実機設計に利用します。Npも撹拌トルクから算出することが可能です。また、水または水あめ水溶液等の模擬液を使用した透明アクリル槽での実験ですので、流動状態も見ることができます。


●参考・引用文献

  • 丸善 改訂四版 化学工学便覧
  • 培風館 橋本健治 編著 工業反応装置

株式会社 神鋼環境ソリューション
プロセス機器事業部

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